スマイレージ/アンジュルム最後のオリジナルメンバー和田彩花がハロプロを去った。個人の意志を尊重し多様性を重視した価値観で、グループを再生。蒼井優らのバックアップという幸運が重なったことは言うまでもない。さらに、今年デビューを果たした12人組グループBEYOOOOONDSが、1stシングルを約10万枚を売り上げ、初登場週間1位を獲得。アイドル界の勢力図を塗り替える活躍を見せた。そんなハロプロの根幹はやはり楽曲。ということで、本家「ハロプロ楽曲大賞」をベースに2018年12月1日〜2019年11月30日リリースされたハロプロ及びハロプロ関連の楽曲のベスト15を私の独断と偏見で選出し、ランキング付けした。
※アイドル楽曲に関しては別枠にてレビュー。
第15位 BEYOOOOONDS「ニッポンノD・N・A!」
ハロプロの末っ子グループBEYOOOOOND、1stシングル。作詞は野沢トオル、作曲は星部ショウ。現代日本を斬った歌詞を、90年代小室哲哉サウンドに乗せた。未成年の主張オマージュも盛り込まれ、令和にデビューしたアイドルが平成の30年間を総括する一曲となった。ユーロビートに乗った「D・N・A」のフレーズは、メンバーがカバーしたDA PUMP「U.S.A.」からであり、要は私のおかげである(しつこい)。
第14位 アップアップガールズ(2)「Be lonely together」
アップアップガールズ(仮)の妹分グループ、アップアップガールズ(2)、7枚目のシングル。作詞作曲はつんく♂。一人称が「僕」で書かれた禁断の愛を想起させる厳かなラブソングで、耽美で幻想的な世界観が堪らない。当初つんく♂プロデュースは3作の予定だったが、4作目が実現。「あいしてる」を一音ずつ分けるのがいかにもつんく♂っぽい遊び方。一昔前なら℃-uteが歌っていた。
第13位 アンジュルム「人生、すなわちパンタ・レイ」
今年、新たに橋迫鈴がメンバーに加わったアンジュルム、3rdアルバム「輪廻転生〜ANGERME Past, Present & Future〜」収録曲。作詞作曲は前山田健一。歌謡曲感強めのディスコファンク。「万物は流転する」の口上からスタート。こしあん派粒あん派といった日常の一コマを、古代ギリシャの自然哲学と紐付けるのがいかにもハロプロ。ヘラクレイトスは万物の根源が火であると説いた。この火がLOVEであると解釈。
第12位 鈴木愛理「IDENTITY」
元℃-uteの鈴木愛理、1stシングル「Escape」収録曲。作詞作曲はBUONO!「初恋サイダー」を手掛けたしほり。アニソン寄りのストレートなロックナンバー。ダンスサイドがフィーチャーされがちだが、BUONO!路線のバンドサイドも愛理の欠かせないアイデンティティ。愛理の突き抜けるような歌声を堪能できる。愛理は来年4月、横浜アリーナソロコンサートを開催。社運がかかってる。
第11位 つばきファクトリー「三回目のデート神話」
デビュー3年目のつばきファクトリー、5枚目のシングル。作詞は児玉雨子、作曲は中島卓偉。炭竃智弘がアレンジをつとめ、「今夜だけ浮かれたかった」と同じ体制で制作。今後の恋の展開が決まるという3回目のデートでの複雑な思いを、春嵐になぞらえたシンフォニックなロックナンバー。間奏の疾走感のあるギターソロと卓偉のコーラスがむしろメイン。ラストの秋山のフェイクが古き良き時代のハロプロを彷彿。
第10位 こぶしファクトリー「消せやしないキモチ」
今年、中野サンプラザで初の単独公演を行ったこぶしファクトリー、2ndアルバム「辛夷第二幕」収録曲。作詞作曲は星部ショウ。煌びやかカッティングギターや華やかなブラスが心地よい、爽やかなファンクナンバー。別れた恋人との思い出を振り返っている恋愛ソングだが、もちろんグループを去った3人を歌っている。これまでの失敗を前向きに捉えた、こぶし懺悔ソング最終決定版。浜浦彩乃の顔面の強さよ。
第9位 CHICA#TETSU「都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて」
BEYOOOOONDSのメンバーからなる4人組CHICA#TETSU、BEYOOOOONDSの1stシングル「眼鏡の男の子」収録曲。作詞作曲は星部ショウ。巨匠清水信之がアレンジを手掛けた可愛すぎる王道アイドルソングで、大好きな彼氏と仲直りしたい女の子の胸の内を歌う。渋谷系の意匠を取り入れたオシャレなポップチューンと「都営大江戸線」という無骨なワードの組み合わせが面白い。ヤックデカルチャー。
第8位 モーニング娘。'19「青春Night」
今年新たに3人のメンバーが加わったモーニング娘。'19、67枚目のシングル。作詞作曲はつんく♂。ラップアレンジはMiss Monday。赤羽橋ファンク好きにはたまらないポップで煌びやかなディスコファンク。つんく♂の人生観が、「明日も君が来なきゃね 全部終わりの算段」といった独特のワードセンスに食らってしまう。ラップパートには、RHYMESTER、ラッパ我リヤ、BIGBANGからのサンプリングも。
第7位 和田彩花「Une idole」
今年アンジュルムを卒業した和田彩花、YouTube投稿曲。作詞は和田彩花、作曲は信澤宣明。偶像崇拝する対象としての旧来の「アイドル」の固定観念を否定し、新たな「アイドル」のカタチを提唱。フランスと日本語の混じり合ったアンニュイな歌詞を、洗練されたエレクトロハウスに乗せた。凝り固まった価値観が台頭し社会が窮屈になる中、あやちょの歌声が「不器用な世界線」をゆっくりと溶かしてく。
第6位 Juice=Juice「『ひとりで生きられそう』って それってねえ、褒めているの?」
今年新たに2人のメンバーが加わったJuice=Juice、12枚目のシングル。作詞作曲は山崎あおい。落ちサビの段原に鳥肌。疾走感溢れるロックチューンで、たくましく生きる女性の弱い本音を歌った。女性の強さを歌うアンジュルムとは女性像が真逆。スキルを武器にしているメンバーにあえてこのようなテーマで歌わせたのは、女性作家だからこ持ち合わせた視点だろう。佳林ちゃんのソロもこれくらい気合の入った楽曲が欲しい。
第5位 カントリー・ガールズ「One Summer Night ~真夏の決心~」
12月26日のコンサートをもって活動を休止するカントリー・ガールズ、ラスト配信シングル。作詞作曲は星部ショウ。80年代にタイムスリップしたようなひと夏の青春ソング。深いリバーブで大滝詠一のような楽曲に。「半年後をここを離れるのマイホームタウン」とその後の活動休止を示唆。「校舎裏で誰かが奏でるサクソフォン」は、既に卒業した梁川奈々美を暗示。嗣永桃子はこれからもメンバーの行く末を見守ってほしい。
第4位 BEYOOOOONDS「アツイ!」
BEYOOOOONDS、1stアルバム「BEYOOOOOND1St」収録曲。作詞作曲は星部ショウ。小林萌花のピアノ生演奏から始まる、疾走感あふれるヘビメタ調のライブの鉄板曲。メロディアスな速弾きギターと重量級のリズム隊が鳴り響くハードロックでアイドルらしからぬ楽曲だが、コミカルな歌詞も加わりむしろアリに。落ちサビでのメタ的な口上は、いかにも岡崎体育的。
第3位 こぶしファクトリー「ハルウララ」
こぶしファクトリー、7枚目のシングル。作詞はMEG.ME、作曲は原田雄一。繊細で美しいハーモニーが映える、可憐なミディアムバラード。特に落ちサビで5人の織りなすコーラスが最高。失恋をした女性のことを思っているが、その主人公の性別が男性女性どちらとも取れる不思議な歌詞。「桜ナイトフィーバー」を歌っていた彼女たちが、こんな風に成長するとは感慨深い。
第2位 アンジュルム「赤いイヤホン」
アンジュルム、3rdアルバム「輪廻転生〜ANGERME Past, Present & Future〜」収録曲。作詞作曲は星部ショウ。イヤホンのコードを運命の赤い糸のメタファー。白馬の王子様を探すという女性を縛り付けてきた旧来の価値観の象徴だ。ワイヤレスにすることで、その呪縛から解放される様を表現。和田はデビュー曲の「夢見る15歳」で「ひとりきり『イヤフォンで』音楽聴いている」と歌った。偶然とはいえ出来すぎた話だ。
第1位 BEYOOOOONDS「眼鏡の男の子」
BEYOOOOONDS、1stシングル。作詞作曲は星部ショウ。原曲は、星部の所属していたバンド「ゼッポリーネ」の楽曲「眼鏡の女の子」。眼鏡の男の子に憧れる女の子という少女漫画的ストーリーを、口上、寸劇、ラップ、ヒューマンビートボックスと怒涛の展開で攻め立てる。「Ah 眼鏡 眼鏡の男の子」「お願いだから取ったってぇな」とフックまみれ。つんく♂が総合プロデューサーを退いて以降のハロプロは、これまでの積み上げてきたものの焼き直しと再生産に過ぎなかったが、BEYOOOOONDSはネクストフェーズに突入した感がある。10年代アイドルカルチャーはこの一曲を生み出すために存在したと言っても過言ではない。この怪曲でアップフロントのオーディションに挑む星部ショウも星部ショウだし、採るアップフロントもアップフロント。ほとんどビョーキ。